memories 24 【求めるモノ】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
*今回はそれほど昔の話ではありません。
【求めるモノ】
小規模なダム湖の小さな滝と紅葉映えるポイントにて。
30分ほど使用していたプラグは僕のお気に入りのひとつ、マンボーだ。キャストもいい場所に決まるし岸際ではバスが盛んに何かを追いかけて捕食している。他にも良い条件が重なっていたが、まだバイトには至らない。
足元のタックルボックスには、このダム湖用にピックアップしたプラグ達が自分の出番を待っている。今、使用しているマンボーに替えて色や形も様々なプラグ達の中からオリジナルフィーを選び出し交換しようと考えた。そしてアイに直結されたラインを切ろうとした時にマンボーと目が合った。
「もう少し使ってくれよ」
確かに彼がそう言ったように思う。いやプラグが話しかけてくるなんてありえない。
一度空を見上げる様にして、彼から視線を逸らした。次に彼の目を見た時にはもう何も聞こえてこない。
僕の膝の上には既にオリジナルフィーが控えているし、もうラインカッターに力を加えれば交換手順がスタートするのだが、戸惑った。
小さな滝状の流れ込みには楓の葉が紅く映っている。
僕は指先に力を入れてラインを切った。そしてもう一度、マンボーを結び直した。
「あぁ、あそこね。頼むよ」
顔の高さまで持ち上げて正面からマンボーを見て、友達に話しかけるように僕は呟いた。彼は愛嬌のある顔だが実力者だ。今までも記憶に残るサカナを連れてきてくれている。膝の上で出番を待っているオリジナルフィーには一度箱の中に戻ってもらう。こちらの彼とはマンボーよりも更に多くの時間を今までに共有してきていたから、少しぐらいの時間なら気持ち良く待ってくれる筈だ。
「さぁ」
小さな滝と水面の交差する白い泡の中に飛び込んだマンボー。左右に首振りをして止まる。また首を振り、止まる。彼の創り出す引き波に楓の像が揺れる。そして…
「ガボッ!」
夢か願望か、我にかえり合わせる。
ロッドが水中まで引き込まれた。水面でもジャンプを繰り返すファイター。時間をかけてなんとかキャッチできた。サイズこそ40cmを少し超えるくらいだったが体高があり逞ましいプロポーションだった。
「ね、どう?」また、聞こえた。
僕が釣ったというよりは彼が釣ったと云うべきか。こんな事もたまには良い。プラグが語りかけてくる事なんてあり得ない話だけど。さて。
僕のトップウォーターでのバスフィッシングは釣れない事が多い。でも釣りを終えて帰宅してからもフィールドの風景や水面に映る景色、少ないながらもバイトシーンやそれらにリンクするエピソードを思い返して愉しむ事ができる。
僕が釣りに求めるモノはこれらの記憶を集め、思い返し愉しむ事なんだろう。プラグが喋ったって問題ない。
文中 マンボー → Mamb-O
オリジナルフィー → Original Fee
©︎ 1999. yukkylucky13