Oikawa Fly Fishing

小さくて美しい、偉大な魚をドライフライで狙います。 たまにTop water bass fishingも。

Ambassadeur 2500c

Ambassadeur 2500c

樹脂でできたパーミングカップとは違う金属の輝き、冷たく堅牢さを感じる手触り。

f:id:yukkylucky13:20230101122015j:image(パワーハンドルですが)

丸型は当時のエッグシェイプの国産リールと比較しても背が高く見えて握り難そうだけど、実際に使用してそんな事はなかった。

キャスト後、ハンドルを回した時にまず最初に伝わってくるクラッチが戻る感触は独特で、「カ」の後にしばらくして「チッ」がくる。決して「カチッ」ではない。この“間”のおかげでか、何度も着水同時バイトが空振りに終わったのだけど、僕は気持ちが入るスイッチであるこの“間”が好きだ。

2500cのハンドル側の内部構造は特に面白くて、カップを外してメカニカルな機構を平面的に見るとハンドル回転時のギアの動きや逆回転防止の仕組みがよく分かる。(古いAmbassadeur全般に言える事だけど)

さらに面白いのはそれを立体的に見た時で、クラッチを切った時や戻った時のギアの動き方なんかは、決して“精密”とは思えない。

f:id:yukkylucky13:20230101122219j:imageクラッチ切る前)

f:id:yukkylucky13:20230101122245j:imageクラッチ切った状態)

このまま釣りに出掛けて、一日中何回キャストをするのか分からないけど、このクラッチ機構が毎回同じ動きを再現できるのか疑問に思う程、パーツの組み付け方や稼働範囲が随分と“適当”に見えてしまう。(ピニオンギアのシャフトはカップ側に収まるのだけど)

しかし、2500c以前からAmbassadeurの歴史は長く続いており、しかもヨーロッパやアメリカなど世界中の釣人に使用されている事からフィードバックが沢山あった事が想像できる。いや、フィードバックを真摯に受け止めてより良いリールを製造したからこそ世界中の釣人に愛され使用されたのかも知れない。

2500cとそれ以前のAmbassadeurを比べるとパーツの素材が金属、樹脂で違っていたり、そもそも形状の違いはあるけれど、スプールからピニオンギアを跳ね上げて切り離す仕組みのクラッチ機構自体を僕が心配する必要はなさそう。

 

僕が2500cを初めて分解、清掃、注油した日。全ての作業が終わって組み付けハンドルを回そうとした時、理由は分からないが重くて回らないハンドルを見つめながら途方に暮れた。2500cのパーツリストと実機を見比べては組み立て直し、やっと正しく組み上げた時にはスムーズな回転のスプールやハンドルを感じてはとても嬉しく、そして疲れてしまって「もう二度と分解しない」と誓った……はずなのにシーズン終わりにはまた分解していた。

 

2500cを随分と使い込んだ頃の夏の川での事。

オーバーハングの下に投じた古いlucky13。広がる波紋に黒い影が近づいてくる。

f:id:yukkylucky13:20230101122401j:image

どうしようか迷った末に選択した次のアクションで激しくバイトしてきた大きな雷魚。彼の所為でlucky13のフックは折れ、曲がり、破断して散々だったが、何より2500cのハンドルが回らなくなり、少し動いても糸が巻けないから、その雷魚とのやり取りは手で糸を手繰る古典的な方法となってしまった。2500cの内部でギアがカジリ合っているようだ。

帰宅し2500cを分解してピニオンギアとメインギアを眺めて溜め息、それとは別にアンチリバースドッグが歪んで曲がっていて、落胆。

f:id:yukkylucky13:20230101122452j:image(当時、叩いて曲げて修正)

ただこれらは当時でも入手しやすいパーツであるのが救いだった。ダメ元で精密ヤスリなどを使い調整したのだけど思いの外、上手くいったようで現在でもそのまま使用している。

時々、負荷が大きい魚とのやり取り中にハンドルだけが空回りしたり、ハンドルとスプールが逆回転して右手を叩かれる事があったけど、それもまぁ良いと思える…

このまま、オリジナルのパーツのままで僕が死ぬまで壊れないで欲しい。

もし僕が死んでしまったらこの2500cは“釣り”を知ってる誰かの手に渡り、できればオリジナルのパーツのまま不具合を楽しんで、愉しんで貰いたい。

そして僕が経験したあの夏の川の事や、初めて分解した日の事を想像して欲しい。

長く時間を共にしたAmbassadeurを何らかの理由で誰かに託した先人達も同じ事を考えただろう。

誰かが使っていた古いAmbassadeurにはそんな愉しみ方もある。