memories 9 【嫉妬か悲しみか】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
【嫉妬か悲しみか】
高校での新しい友人がバス釣りをしていると知って嬉しかった。
初夏、新緑の香りと無邪気に明るい日差しを浴びながら、新しい友人と釣りに出掛けた。
I君、釣りこそあまり上手ではなかったと記憶している。
ウエイトリフティングで鍛え上げた彼の屈強な身体から繰り出されるキャストは、時としてプラグをラインの呪縛から解き放していた事を思い出す。
飛んで行ったプラグは当然ながら飛距離が出ていたので回収には時間がかかるし、その間は釣りは中断される。
それぞれ好きなポイントに散らばって釣りをしていた友達数人が皆集まってたった一個のプラグを回収する為にあの手この手。
それでも彼等と一緒になって、沖に浮かぶ小さなプラグを目標にキャストを繰り返すのも、また楽しかった。
そんなI君と釣りをしていて、羨ましい事がひとつ。
彼はAmbassadeur を使っていた。
高価なリールやルアーをたくさん持っていた彼。欲しい物は大抵、親が買ってくれる環境にあると言っていた。
僕は彼のそうした家庭環境が羨ましかった訳ではなく、彼の使っていたAmbassadeurが格好良くてスマートだった。
いつか自分もAmbassaduerを手に入れたい。そんな事を考えるようになっていた。
元々、他人のモノを羨ましがったりしない性格だけど、Ambassadeurには惹きつけられた。憧れのリールとなった。
そんな思いを悟られたのか。
ある日、自分がいつも使っているリールが故障した。ギアが噛み合っていない感じは少し前からあったが、バラして注油すればストレスなく使えていたのに。釣具屋さんで見てもらったところ、メーカーに修理に出さなければいけないと。
嫉妬か悲しみか。
僕の道具には僕の思いが伝わるようだ。
「どんなポイントを好み」「どんなプラグを選ぶ」のか。そしてプラグ達もそれぞれ自分の出番を理解していると思う。長い間、一緒に釣りをしてきた道具達には全てお見通しである。
浮気心も悟られたようだ。
Ambassadeurの事は暫く忘れよう。
いつか大人になった時に手に入れればいい。
それまでは今のリールを修理して大切に使おう。
ダイワ マグサーボ。廉価なモデルだけど数年の時間を一緒に過ごした大事な相棒。
先日、久しぶりに使ってみた。
新緑の香りと共に懐かしい音がした。
©︎ 1999 yukkylucky13