memories 25 【秘密基地ふたたび】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
【秘密基地ふたたび】
T池は水位が上昇し過ぎると周辺の道路を冠水させる恐れがある為、オーバーフロー用の巨大な排水路が備わっていた。
池の南側、護岸された斜面の中央に幅10m、高さ2mほどのトンネルが口を開けていた。いつものK嶋君、K谷君、M尾君らと釣りをして、夏の暑い日にはそのトンネルの中で休憩をするのが日常だった。トンネルの前で適当にプラグを投げてもバスは釣れた為、僕等の釣りのベースキャンプだった。
[
「もう中学生なんだから」と僕は思っていたが、誰かが椅子や机を持ってきてトンネル内に設置した。もちろん池の近くのゴミ置場から拾ってきた訳だけど。 次第にトンネル内には様々なガラクタが集まってきた。ゴミ置場からでは無く、釣り場のゴミだ。電話器、小さなテレビ、地球儀、テニスボールや野球のバット。まるで小学生の遊びだ。
秘密基地がふたたび僕の前に現れた。
ある日にはこの秘密基地の中で、釣りたてのバスを網で焼いて食べた。M尾君の家から持ってきた塩と醤油で味付けし、ジャンケンで負けた奴から食べたのだけど、小骨と焦げと味付けが不味かった。 また、ある日には秘密基地でちょっとしたケンカもあったり。 でも、相変わらず秘密基地には様々なゴミが集まってくる。
そして、釣り場周辺のゴミの中でも少年達が無言になるアイテムがあった。
【大人の本】
何故だか沢山、落ちていた。主にM尾君が担当でページをめくる。
皆さんもお分かりだと思うけど、【大人の本】は大抵は濡れていたり、それが乾いてくっついて写真のページはうまくめくれない。でも彼は上手かった。木の枝なんかを使って本を破らないように丁寧に扱う。
「おおっ〜」
ページが捲れる毎にどよめく。が、会話はない。バス釣りなんかどっかに忘れている。釣竿を踏んでも気付かないだろう。
そんなある日、いつものメンバーで釣りをしていると、この池の水位を管理している方が来られた。
ちょっと強面のおじさん。
子供相手だけど丁寧に挨拶をしてくれた。
で、色々な事を注意された。
排水路に粗大ゴミなどが置かれていると大雨の際に流れだし、下流の田畑に被害が出る事。 そもそも池は立ち入り禁止では無いが、子供は遊ばないで欲しいという事。 ゴミ集積所に出された物は持ち出さない事。
全く、その通りです。
注意されたその日に、みんなで秘密基地と化したトンネルを元の姿に戻す事に。
ところが、机やイスは楽なんだけど例の【大人の本】はどうしたらいいか悩んだんです。
ゴミ置場に捨てるのを誰かに見られたら恥ずかしい。そうなんです。この【大人の本】は、捨てるのがとても難しいから、池のほとりにこっそり置き去りにされるんです。
僕らが集めた【大人の本】は10冊くらい。誰もが嫌がったが、意を決したM尾君が白昼堂々とゴミ置場に捨てに行く事になる。
「俺が担当だから」
言ってる事はカッコいいが、やってる事は恥ずかしい。
彼にばかり嫌な思いはさせられない。
でも、ひとりで行ってもらいました。
©︎ 1999 yukkylucky13