memories 4 【水柱】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
【水柱】
水柱?今思うと、中学生の考えそうな表現。言いたい事は相手に伝わるのだろうけど。
平日、早起きして登校前に1時間弱のバスフィッシングをしていた時期がある。
月に数回の早朝釣行で、日の出時間と前夜の夜更かし具合に左右されながらも15歳の僕は近所のT池に向かう。
こんな朝早くから釣りに出掛ける友達はいなかった。そりゃそうだ。この後、学校やクラブ活動なんかがあるんだから朝はゆっくり、いやギリギリまで寝ていたいだろう。で、僕は友達や同級生からよく質問された。
「早起きして釣りに行くの、眠くない?」
「眠たいけど、朝は静かで気持ち良いよ」
彼等からしてみれば、僕は中学生にして“おっさん”であった。
本当の理由は違う。 朝の静寂の中での研ぎ澄ましたキャスト。ひとつひとつに意味を持たせたルアーアクション。そして鏡の様な水面が突然割れる瞬間の興奮。最後にグッドサイズをキャッチした時の高揚感。こういった事がトップウォーターフィッシングで得る事が出来るんだと友達や同級生に言ったのだが、あまり伝わっていないと感じたので、それ以降は当たり障りなく答えていたのである。
それに朝はよく釣れた。
その当時の僕の友達はみんな、釣れない釣れないと学校でグチる事が多かった。でも彼等はフィールドの情報交換や新規開拓、釣り具店では新発売のルアーの購入やその使用方法を店主に聞いたりと、それなりに努力はしていた。でもそんな事より少し早起きすれば釣れるのに。
僕は当時から(自称)トップウォータープラッガーだったけど、僕の釣り仲間はスタイルが違った。
僕は護岸沿い、オーバーハング、ブッシュや障害物を好んでサクサク歩くのだけど、僕の釣り仲間は一か所に留まって沖方向にクランクベイトやワームの類いを遠投するスタイル。
共通していたのは、誰かが釣れたら大声で
「釣れたよ〜」
「釣れたの〜⁉︎」
「〇〇君が釣ったよ〜」
この伝言ゲームである。池の外周を素早く伝り、仲間達と僕は釣れた友達のそばに駆け寄って祝福と並行して情報を聞き出すのである。釣りのスタイルが違うので彼等の情報に関しては(自称)トップウォータープラッガーの僕には不要だったのだけど。
「ルアー何?」
「どこで釣れた?」
「ルアー、どうやってアクションさせた?」
でも、僕はこのヒトトキが大好きだった。
彼等は普段と同じ場所で、特に驚くようなルアーで釣った訳でもない事は釣れる前から分かっているのに、バスを釣った本人はこれらの質問で鼻がグングン伸び、周りはさらに質問を続ける。スター気取り、囲み取材。ビデオカメラでも有れば最高だ。誰もがキラキラした笑顔だった。
本当に大切な時間だった。
ある朝、またひとりでT池。時刻は4:30頃だったと思う。山の向こうから朝日。
お気に入りのポイントの前に立ってキャストを開始。岸沿いには冠水植物がありそういったポイントを集中して攻めるけど反応無し。
30分ほど時間が過ぎる頃、池の中央部にフナの群れが浮いてきた。自分の位置からは何とか届く距離だけど、友達のように普段から遠投して無いので、自信がない。遠投もやっときゃ良かった。
【へドン チャガーjr】を結んで、渾身のキャスト。
届かない。
もう一度。
もう一度。
何とかフナの大群の向こう側に【チャガーjr】が届いた。
チャ、チャ、チャッと速めのアクションで群れの中央部をリトリーブしてくるけど、フナがザワザワしていて【チャガーjr】がどこにあるのか見えない。【チャガーjr】は群れの真ん中にあって確実にアクションしているはずだ。
緊張感をもって巻いていると、急にフナの群れが【チャガーjr】があるだろう位置から左右に分かれ…
次の瞬間、水柱があがった。
バイトだ!
ドキドキしていたのをよく覚えている。
僕の想像を遥かに超える夢のような瞬間だった。
44cmのバス。体高があり逞しい姿。
さらにサイズよりもその激しいバイトが嬉しかった。
その日の学校で、この興奮と共にトップウォーターで得られる楽しさを意気揚々と友達に説明するのだが、僕の鼻が伸びるだけであまり伝わって無い事は彼等の表情を見れば明らかだった。
彼等は絶対に早起きしないし、彼等にとってトップウォーターは(あまり使わない)手段のひとつであり目的にはならない事をピノキオになった僕は確信したのである。
©︎ 1999 yukkylucky13