memories 16 【生き物の純粋な姿】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
【生き物の純粋な姿】
その日は同じ中学校の友達ふたりと僕の3人で、近所の野池に釣りに出掛けていた。
トップウォータープラグを投げているのは僕だけで、ふたりは【リトルN】や【スーパーソニック】なんかを投げていた。
朝から昼過ぎまでにふたりはバスをキャッチしていた。僕だけが釣れないのはいつもの事だったけど。
それぞれが食事の為に一旦帰宅して、夕方前に再集合した。
いつも一緒に釣りをする仲間との楽しい時間はあっという間に過ぎ、やがて西の空が僕等の1日の終わりが近い事を教えてくれる。
まだバスをキャッチしていない僕は、なんだか取り残されたような気がしてくる。
【ダイイングフラッター】を結んだ。
暗くなる迄、あと1時間の勝負。こいつでダメなら諦めもできる。
岸沿いに水面から1本だけ顔を出している杭。
今日一日、みんなで何回狙った事か。それと同じ数だけ空振りに終わっているのだが。
日没少し前で、ポイントの向こうには山に沈む夕日が少し残っている。水面はベタ凪で鏡のよう。雰囲気は最高、絵に描いたような情景。
呼吸を整え【ダイイングフラッター】を杭の少し向こうに落とす。長めのポーズから50cmほどスローリトリーブ。そしてストップした瞬間に「ゴボッ!!」
グッドサイズ。
今までどこに居たのだろう。どうせならもっと早く釣れてくれれば良いのに。バスをリリースした後も気分が良かった。友達もようやく僕がバスを釣ったので、ホッとしたのかとても喜んでくれた。
もうダメだろうと思いながらも、同じポイントに同じプラグをキャスト。着水と同時に少し巻き取りポーズ。その後、ストップ&ゴーを繰り返していると「ガボッ!」
少し小さいけど35cmくらいのナイスプロポーションが出てくれた。そして2連続は初めてだった。
「そろそろ帰ろうか」
誰かがそう言う。
「今日は長かったなぁ〜」
僕はそう言いながら【ダイイングフラッター】を水面に浮かべたまま引きずって歩いていた。
仲間の最後尾、水際の細道を隊列を組んで。自転車が停めてある場所までは100mほどか。
「シャラララ…シャラララ…」
「バシャバシャ!!!」
? ? ?
ふり返って見ると、見た事の無い光景。
水深20cmもないシャローエリア。
体を斜めにしながらも凄いスピードで泳いできた奴。そいつは【ダイイングフラッター】に猛然と襲いかかってきた。
僕は唖然としながらも、夢中でそいつを取り込んだ。
キャッチしたバスはそれほど大きくなかったけど、プラグがすぐに外せないくらい暴れまわる。
餌に乏しい野池の所為か、生きていく為の当然の行為か?こんな浅い所を。下手をすると自分が苦境に立たされるのに。
生き物の純粋な姿が脳裏に焼き付いた。
©︎ 1999 yukkylucky13