Oikawa Fly Fishing

小さくて美しい、偉大な魚をドライフライで狙います。 たまにTop water bass fishingも。

memories 0 【ルール】

私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。

【ルール】

僕の中で「カチッ!」とスイッチが入った。

少年?小学生になったばかりの夏。何故そこにいたのか思い出せないけど、同級生たちと小学校の建屋近くの一級河川に遊びに来ていた。保護者もいる。先生も。

山間部に開けた集落、ゆっくりと流れる時間。蝉の声に木の葉の香り。

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次に覚えているのは、まるでストローの両端を塞いだだけのような”浮き”を“ウキ止め”に差して、竹竿を「えいっ」と振り回しているシーン。餌は“サシ虫”。

照りつける日差しの中で、同級生たちは様々な遊び方で楽しんでいる。泳いでいる子もいた。ただ仲の良かった川崎くんは見当たらない。どこにいたのだろう。この後、初恋でドキドキする事になる女の子もいない。

僕は人生で初めての魚釣りに挑んでいた。

開始早々に水面に立つストローがピクピクと動いている。不思議な感覚だった。近くで大人の声。「はい、竿あげて!」

僕は素直で扱い易い子供だったと言える。今でもそうだがルールは尊重する。ただし、“後出しジャンケン”の類いは大嫌いだ。

“年度末に上位20%に位置していれば良い”

とルールを決めたくせに、ゴールが近づくと

“ランキングで10位以内、ワースト10%にはペナルティ”とルールを変えてくる組織。

なんだかなぁ。ま、当たり前か。そんなのは。

臨機応変を掲げて都合良く振舞う人も沢山見てきた。自分に不利益でもルールを尊重する人も少しはいた。今でも僕は少数派の方だ。だから時には損もするし、周りからの評価は極端に二分されている。まぁいい。僕の人生だし。他人からの評価より自分の信念を曲げない事が優先、面倒臭い性格だ。組織の中で成果をあげる事は嫌いではないし、さらにチームとして勝てる事は重要だとも思う。ただそれもルールの中で。もし相手が武器を持ってたとしても僕は素手で相撲を取り、負ける方が良い。こんな事だから僕は組織に属して守って貰わないと生きていけないのだろう。

少年だった僕は竿を上げ、釣り糸のもっと先にいる小さな魚からの力強い生命感を感じた時にスイッチが入ったと感じた。高揚感、好奇心からくるものか。釣れたのは小さな魚だった事は覚えてるけど、魚種やサイズはどうでも良かった。そして僕のスイッチは未だに切れていない。

水面は僕らの世界と、魚の住む世界の境界線。“浮き”を通して違う世界の彼等からのメッセージを受け取り、彼等を想像する。彼等はルールを変えず、曲げずに生きている。生存競争を生き抜こうとしているだけか。でも彼等は“後出しジャンケン”無しだ。釣れる時も釣れない時も無心で彼等と同調しようとする。何年も、何十年も。

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大人になった僕。

だけど、ルールを守らずにいた時期もあった。“守れずに”の方が自分を擁護できるけど。そんな時期は魚釣りどころではなかったから、より心が荒んでいたかも知れない。

で、なんとか普通に生活を送れるようになってまた、魚釣りを通して違う世界の彼等の生き方を覗かせてもらい気付く。

水面で隔たる、こっちと向こう。

平凡な日々を過ごし維持する事がどれだけ大変かと今頃になって分かる。

こっちの世界は複雑すぎる。

向こうの世界は何十年経った今も、何も変わらずシンプルで分かりやすい。

でも、両方とも残酷でもある。

©︎ 1999. yukkylucky13