memories 27 【釣具店】
私の体験を綴ります。30年以上、もっと前の話。こちらは1999年〜2004年頃に私が運営していましたホームページからの転載です。当時【episode】として掲載してましたが【memories】の方がしっくりくるかと。
【釣具店】
《二軒目》で、【Zara II】を紹介してます。《一軒目》
中学校の近くの駄菓子屋は、その店番をしている親父さんと同じくらい年季が入っていた。ほとんど無言で会計をする親父さん。まともな挨拶なんて聞いた事もなかった。
その店は少ないながらも釣具も扱っていて、流行りの【ジェリーワーム】は置いてあった。
「もっとルアーないの?」
零細(失礼)商店の親父さんに中学生が失礼な事を平気で言う。本気で言ってたからタチが悪い。
【ジェリーワーム】は僕等の中でもヒット商品で、バスもよくヒットした。
僕もバス釣りを始めた頃の最初期、ワームの類いを使用いていた時期があった。ウィードレスワイヤーのついたワームフックに【ジェリーワーム】をセット。もちろんシンカーも。
バスがワームを咥えて動く様子をロッドを通じて感じ取る。水中の見えない世界を想像するのは楽しいけど、なんだかエサ釣りと同じじゃないか?と、思いながらも良く釣れたので、やめなかった。
仲間内では【ツインテール】使いで通った時期もある。後に【トーナメントワーム】も。
【トーナメントワーム】はすぐボロボロになった為、現場でライターを使って補修してた。失敗も多かったけど。
【トーナメントワーム】は自重があってノーシンカーでもそこそこ飛距離が出たので、かなりの頻度でトップウォーターとして使用していた。
岸の上に投げてズルズルと引いてくる。ワームの頭の部分だけ水の中にチョンチョンチョン。波紋でバスに気付いてもらったら勝負あり。岸辺で激しくバイトするバス、後は楽に釣れた。
で、改めて思った。
僕は水中を想像するのでは無く、バスが水面で激しくバイトするシーンが見たいのだ。
いや、何でもいいから釣りたい気持ちもまだあったけど。だからまた、買いもしないのに駄菓子屋の親父さんにほかのルアーも仕入れて欲しいとお願いするのだ。親父さんもよく分かってる。そう簡単に仕入れない。
《二軒目》
僕の家の近所にも釣具屋があった。新興住宅街の中で、お店は店舗兼住宅として営業されてたと思う。この店にはそこそこの種類のルアーがあった。店主の方は30代前半くらいか?脱サラをして釣具店をされてるのか、結婚後、新居を構えるにあたり店舗併設を思いついたのか?
【Heddon】も割と沢山置いてありこの店舗で【Zara II】と【Big bud】を購入したと思う。
頭に穴の空いた【Zara II】。【210】のボディを使用しているため、あのエリマキの基準穴が有るのだそうです。
【Zara II】はあまり使わなかった。理由は2つ。
ラトル音がする事と、僕の持っていた個体はボディ右側面に凹みがあった事。
中学生の僕は変な事に拘り始めていた。
ラトル音が嫌いな理由は明快。
僕の考える最も崇高なトップウォータープラグはペンシルベイトだった。操るアングラーの力量が試される点で最高にやりがいを感じた。そう言う意味ではラトル音は僕の進む方向とは別のベクトルで、バスを誘惑する上で基本動作以外の補助装置は不要だった。
ただし、【フロッグマン】は別格。僕の中ではすでにレジェンドプラグ。
ラトル音と言えば、当時僕以外の誰もが持っていたパイプレーションの【レロイブラウン】は音の面で最悪でしたが、シルエットのバカバカしさは最高でした。
ラトルの話に関係ないけどマンズ社のルアーがいくつも登場してるのでついでに言うと【ハードワーム】は発売を決定する前にマンズ社の幹部含めて誰も止めなかったの?マンズって本当に素晴らしいメーカーです。
悲しいかな、新興住宅地の中の釣具店はあっという間に閉店した。中学生の僕にもなんとなく理由は分かる。
新規開店であれば、もっと人が多くてアクセスの良い場所でやるべきだと思う。
《三軒目》
【バルサ50】を購入するには隣の市まで自転車で2時間を要する店舗に向かう事になる。
この店はいかにもアウトドア好きという風貌のおじさんが、少年たちに夢のある話をしながら営業していた。引き換えに少年達のお小遣いはアウトドアおじさんのお店で消費される事になる。僕もそうだった。
大人になったら絶対買うぞと決めていた黒と金のAmbassadeur。店舗内のカウンターショーケースの横。木製の高級そうなキャビネットに数台が並んでいた。
大人になった僕は何台かのリールを購入した。Ambassadeurは2500Cを3台と4500C、5000、5000C、5000Dを所有してたけど、今後使わない物は友人に譲ったりショップに売却。定番の5500Cを所有した事が無いのが僕らしい。
いつの頃からか物欲が消え、必要な物だけを手に入れるような人間になってしまった僕は、黒と金のAmbassadeurを所有する事はないだろう。アウトドアおじさんが少年に刷り込んだ羨望の思考は時間と共に失われた。
夢と希望をありがとうございました。
《四軒目》
【フロッグマン】があったという情報を得て中学生の僕は下校時に自宅と反対方向に自転車を飛ばす。
スピルバーグの映画に出てきてもおかしくない程の速さで。
片側4車線道路の街にある小さな店舗に【フロッグマン】は確かにあった。価格は忘れたが安くなかった筈。黄色い奴を購入したかったが茶色しかなかった。僕には【フロッグマン】は黄色しか考えられなかったので、残念だけど見送る事にした。
時が過ぎ。
社会人になり何年も釣りから遠ざかっていたが、それなりにストレスを溜め込んでいた僕は久しぶりに山の中の静かな野池で時間を過ごした。帰路につきこれもまた久しぶりの【フロッグマン】を見送った釣具店に向かう。
様々なプラグを見ていたら店主の方に注意された。
「プラグは高級品なんで、軽々しく触らないで」
箱に入ったプラグ。箱のフタは開けられていて下に重ねてあった、他に並んでいるプラグも同様にフタは空いている。しかも、一切触れてもいないのに。
こちらも言いたい事はあったけど、商売をされてる側からしたらキズでも入れられたら困るのだろう。
その時僕が見ていたプラグを店主の方に手渡して
「買いますわ」
特別欲しくもなかったけど約1万円の抗議行動。
「それとプラグには触れて無いんで、よく見てから言って下さいね」と余計な一言。
釣りの帰り道。ストレスは発散してた筈なのに。
僕も大人になれてなかった。
釣具店では沢山の夢を見る事が出来た。
最近ではほとんど行く事が無いけど、消耗品だけを求めていては、夢が遠くに行ってしまいそう。
たまには無駄遣いをしてみようと思う。
©︎ 1999 yukkylucky13