memories 11 【奇跡の確率】
【奇跡の確率】
「でかいの⁉︎」
対岸にいたNさんが、気付いてこっちまで走って来てくれた。今、僕がファイトしているバスは大きく強い。
その日はNさんと初めてのフィールドでバスフィッシング。何故だか覚えてないけど電車で現地に向かっていた。
車窓に映る緑の山々、空を見るとハンググライダーが沢山。田園風景を眺めながら期待値がどんどん上がっていく。
しかし、現地に到着して僕は意気消沈した。
川でのバス釣りだったのだが、水が少ない。水位が30cm程しか無いのでストラクチャーどころでは無い。 ひたひたと川縁を歩き、釣りができそうな場所を探す。 いや水深があれば何でも良いから早く釣りがしたい。
Nさんが大きく場所を移動する事を決めた。 どうやらこの川は台風対策で作為的に水量を減らしていたようで、このエリアにある他の川へ行く事になった。
とにかく早く釣りがしたい僕は目指す川の方角へと早足だった。Nさんは後ろで笑っている。
夏の終わりの日差しに、茂る背の高い草の匂い、熱気。
目の前に新しいフィールドが開けた。 川幅もあり、水量も多い。川といってもほぼ止水でいつもの野池とそんなに変わらない。
早速、プラグを投げまくる。 葦のポケット、水面に突き出る杭、護岸沿い、沖の漂流物、手当たり次第だ。
ベビーザラを使ったドッグウォークの連続アクションは僕の得意な釣り方だった。カーボンロッドで小気味良く速いテンポでリトリーブを繰り返し、バスを誘う。
でも、反応がない。
橋の所でNさんとは離れて、対岸へ渡る。初めてのフィールドだから色々と考える事があって、釣れなくてもとても愉しい。
いくつかのポイントを釣り歩きながら、巨大な水門のある場所に着いた。ここは水流がある。ポンプを使い川の水を隣の川は流しているようだ。水深は深そうでワンド状に広がったこのエリアは引き寄せられたゴミや流木が一面を覆っている。
水面はこれらの漂流物で埋まっており、プラグをキャスト出来ない。ただ、足下に目をやると少し水面が顔を出すポケットがある。あまりにも小さいポケットなので僕の持っていた1番小さいプラグに結び変えた。
ザラパピー。
チョコレートのお菓子みたいに小さい。
少しキャストしないと届かないが、1投目に良い所にプラグが届いた。次の瞬間、
「バフッ」
反射的に合わせた。
手応えはあるが重たいだけ。空振りか…
と思ったが、急に深く潜り出した。
焦りながらも、ラインが切れる事を避ける為に出来るだけラインの同じ場所が漂流物に擦れないように心掛ける。
Nさんは僕の居る足場の位置が高い事、前日の台風の影響で水面には流木等のゴミが無数に浮いている事、僕の使っているロッドがミスターDONのウルトラライト、ラインはいつもの黄色いストレーンの10lbである事を知っていて、僕がファイト中のバスをバラす確率が相当あると思ったらしい。
僕も必死だったけど、ロッドは最悪、折れても良いと考えていた。そこでラインブレイクだけしないように注意しながら動きがスローになった大きなバスを抜き上げる事を考えた。
しかし今いる足場の護岸は水面から2.5mの高さ。ラインもデッドストックの古い物。ちょっと無理があるかも。
そこへ対岸から走ってきてくれたNさんが到着し、手を切らないように注意しながらラインを慎重に手繰り寄せてくれて無事、ランディングに成功した。
51,5cm
僕の初めての50cmを超えるバスだ。
Nさんと田園風景、残暑の日差しと草の匂い。
台風後の漂流物と高い足場。
奇跡の確率。
©︎ 1999. yukkylucky13